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ベンチャーならではのカルチャーから、次のフェーズへ 属人化とコミュニケーションの課題を明確にし、現場からトップへ改善提案

Writing
Momoko Yajima
Photo
Sayaka Mochizuki
ベンチャーならではのカルチャーから、次のフェーズへ 属人化とコミュニケーションの課題を明確にし、現場からトップへ改善提案

千葉エコ・エネルギー株式会社

(右)蘒原領さん 専務取締役

(左)富岡弘典さん VEMS事業部 アグリチーム 執行役員

2012年に創業し、農業×太陽光発電の「営農型太陽光発電」モデルを事業化し、政策提言や自社開発を通して全国に広げる取り組みをしている、千葉エコ・エネルギー株式会社。食糧とエネルギーという人間に必要なインフラを両面から支え、持続可能な社会づくりに寄与する企業である。温暖化や気候変動といった環境問題のほか、農業経営の持続可能性、地域づくりなど、様々な社会課題に対する動きとして、今後さらに注目される事業モデルである。千葉大学発のベンチャー企業として設立し、現在12期目。自社農場を運営する関連会社を含め、社員数は20人規模。

●課題――「属人化」と「コミュニケーション不全」

――どんな課題があってmeguriにコンサルティングを依頼されたのでしょう。

(杉本)もともとは、目標値が達成しきれないというお話でしたが、伺っているうちに、これまで個人の集合体のような形で属人化が進んでいたので、そこをどうにかできないか、ということでスタートした感じですよね。

(富岡)そうですね。課題感として、「属人化」はありました。もともとベンチャーとして始まり、メンバーが自己流でノウハウをためてきたところがあります。そこへ、会社の成長と共に若手や他社から多様な人材が入ってきて、これまで蓄積してきた知見や情報、技術などの共有ができなかったり、前に進みづらい状況がありました。

もうひとつは、新型コロナウイルス(以下、コロナ)で内部コミュニケーションが損なわれてしまったこと。ひとところに集まることが2、3年制限され、そのタイミングで入社した若手にとって、隣のメンバーが何をしているのか、どんなことでつまづいているのかなどが分からず、対面で話したり雑談で補うこともできなかった。

コロナが明けて、さあ会社としてこれから進もうとなった時、そのベースができていなかったんですね。

(蘒原)コロナ禍以前は私がメインで全事業部の統制、事業掌握をしていたのですが、それを2020年から、それぞれの部門ごとに権限を委譲していきました。その中で、もちろん能力やスキルの属人性もあるのですが、コミュニケーション能力の属人性というか、横断的に全体と話している人と、近視眼的なことしか話せない人の差が、リアルで会えないことでなおさら目立つようになった。また、部門ごとの差も見られました。

数値を立てたり共有できない、課題感が認識できないなどの問題点は、全てコミュニケーション不全に由来していると思いました。ですので逆に役員は一旦外れて、外部の人と社員でコミュニケーションについて見直す機会を持てればと、社長の馬上から、meguriさんにお願いした流れです。

(杉本)入社3年目の30歳の男性社員の方が「売り上げの課題もあるけど、僕はみんなの本音が聞きたいんです」と言っていたのが印象的でした。

(富岡)彼はうちの基幹事業である、ソリューションコンサルティング部門のリーダー的ポジションでした。部長はうちの社長が兼ねています。

ただその頃は彼も完全にはリーダーと言われているわけでもなく、そのあたりも曖昧でした。求められる役割や、あるべき姿、目標も、全体や部門間で十分に共有されていなかった。

(蘒原)ジョブディスクリプション(職務詳細)や掌握範囲の定義が不明確なまま、期待を押しつける状況になってしまっていました。彼なりに応えてはくれるけれど、やりづらさは感じていたと思います。

●改善に向けたステップ ――ワークショップで見えた、それぞれの思いと課題

――コミュニケーションの課題が見えたところで、次のステップとしては何をしたのでしょう?

(杉本)次のステップとしては、現場の社員さんたちでワークショップを行いました。富岡さんはワークショップに参加してみていかがでしたか?

(富岡)環境も年齢も社歴もバラバラの人たちが、自分の思っていることを話せたのは本当によかったです。この人はきっとこうなんだろうという勝手な思い込みってあるけれど、ワークショップの中で「ディスク」という自分のタイプ分析をやってみて、ポジティブにどんどん推進したい派かと思った人が、実は慎重に進めたい派だったという意外性が見えたりした。表面的なキャラクターと仕事の進め方が違うということが見えてなかったんですね。

ワークショップをすることで、個人として大切にしている価値観と、会社として、自分の役割としてやらなくてはと思っていることの両方が可視化されて、その上でそれぞれの将来のビジョンが見えた、貴重な機会でした。

●改善に向けたステップ ――現場から社長に提案 会社も次のフェーズへ進む時期

――その後はどのように進んだのでしょう。

(富岡)ワークショップ等々を経て、現場の課題感や改善点が明らかになり、それを事業部長兼社長の馬上に対して、現場として提案をあげました。

(杉本)meguriとしてはワークショップが終わって資料をまとめて、客観的に見てこんな改善の余地があるけれど、最後に何をするか選び取っていくのは皆さんですということを伝えました。皆さん馬上さんにどう伝えるかで悩んでいましたね。

私たちはそれを誰がどのように実現していくか、きちんと機能させるためのルールメイク、実装過程に伴走しながら7月いっぱいにはほぼ完了という流れでした。

――提案を受けた馬上さんの反応は?

(富岡)目の前の事業課題に対して、こういったやり方がいいのではないか、こういう形だと自分たちができる、と具体的に伝えました。その中には、馬上と現場の間に入るマネージャーというか、「差配者」の存在が必要という提案も入っていました。馬上も、現場の声として受け止めてくれたと思います。

同時に、馬上からは、10年後のキャリアプランやどんな生き方を大切にしたいかといった、新たな命題も示されました。社長として、もう少し長期的視野で、目前の数字にとらわれず考え方を広げて成長してほしい気持ちがあったのだと思います。

これらのやり取りを踏まえ、今は組織体制や役割の見直しに取り組んでいるところです。

(蘒原)馬上自体が社会人経験なしに作った会社で、そういう意味で完全な雇用・被雇用の関係性というより、パートナーや仲間というか、社長も社員に対して立場が近い感覚が残っていたのが今までです。一方で、10年後の自分のキャリアまで見られる人は当然いるけれど、そこを望んでいない、「従業員として」どうありたいかという人たちもいて、そのギャップについて腑に落ちました。おそらく今後は、経営層と従業員という、その立場や責任をもっと分けて組織を整理していくことになります。

実は会社設立時のコンセプトが、「終身雇用」「長期安定収入」だったんです。ベースアップで、給与や待遇にあまり差がつかない。インフラ事業なのでドカンと収入が上がるわけではないけど、代わりに長期安定収入だし、自分の研究や事業とか好きなことをすればいい、その方が自由がある、と思っていたんです。そんな理想で会社をやってきたけど、ライフステージもありいろんなものが変わる中で、設立時と同じ気持ちではいられないし、同じ気持ちを周りに期待するのも違う。僕ら役員も少しずつ価値観を変えていかないといけないということが、今回のことで明確になりました。

もうちょっと従業員的な、「雇われ」で安心したいという意見がメジャーになりつつあるのなら、会社として評価制度も人事制度も一新していくタイミングかなと。頑張ってる人と頑張ってない人でインセンティブに差がつかないのも、内なる不満として出てきたので、これからは、部署によっては成果に応じてインセンティブが変わる、成果が出なければ出ないなりの評価をするようになると思います。過保護な経営時期が終わり、会社として第2創業に入っていくのかと思います。

採用も、人柄やカルチャーに合うという点重視の「メンバーシップ型」から、もう少し目的や業務のための「ジョブ型」に切り替えていこうかと考えています。

●コンサルを入れた効果――社員だけでは難しかった、テコの役割

――今まで外部から第三者的な人が入ることがなかったと思うのですが、今回初めてコンサルを入れてみて、効果などはありましたか。

(富岡)まず、社長がコンサルを入れたことが、僕らにとっても「いまここに時間をかける」というメッセージとして大きなものでした。

外部コンサルを入れて、時間の確保と、改善というゴールまで伴走してもらえたことは大きいです。半ば強制的に時間を確保させられて(笑)、しっかりと与えられた課題やゴールに対してアウトプットすることができたのは、外部から入ってもらったからこそ。これが社員だけだと難しかったと思います。

(蘒原)ベンチャー企業ならではの「トップダウン」から、初めて「ボトムアップ」での提案がなされ、それで改善に動くという新たな流れができた。役員主導ではなく、従業員主導でできたことは、会社としてひとつの転機です。ボトムも比較的若い会社なので、現場の社員だけではできなかったでしょうから、そこにテコのように入ってくださったのはありがたかったです。

今、農業法人の方にも外部からCFO(最高財務責任者)が入って事業計画を作ってもらっています。いままですべてインハウス(内製)で処理してきたことをアウトソースする動機や理由を社内に説明するのが難しかったのですが、今回、meguriさんに「チームビルディング」の観点で入っていただいたことをきっかけに、会社として専門家をアウトソーシングしながら体制改善がどんどんできるようになったので、いい意味でその実績を作っていただけたと思っています。