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【meguri10周年連載対談session2】 「恐れ」ではなく「愛」から生きると、個人も組織も豊かになる。 有冬典子さん×榎並 顕さん

Writing
Azusa Okajima
Photo
Ayako Mizutani
【meguri10周年連載対談session2】 「恐れ」ではなく「愛」から生きると、個人も組織も豊かになる。 有冬典子さん×榎並 顕さん

2015年、「meguri(めぐり)」という名前の会社を立ち上げました。
心や体を/人から人へ/地域や社会に/未来へ向けて。さまざまな形で循環していく想いや物事を大事にする会社にしたい。言葉にするにはまだ漠然としていたけれど、でもたしかな想いから、meguriは始まりました。

そんなmeguriも、めぐりめぐって10周年。たくさんの人とめぐりあい、想いをめぐらせてきました。この節目に、meguriのパーパスを体現されているみなさまに、それぞれが大事にしている「めぐり」について聞いてみたいと思います。

2回でお届けするのは、「リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論における自己の成長プロセス」の著者有冬典子さんとオムロン フィールド エンジニアリング株式会社 執行役員の榎並顕さんの対談です。大学入学までは対照的な日々を送っていたお二人。しかし、それぞれの経験を経て大切にしたいと思っていたこと、これからめぐらせたいものの共通点が見つかり、お互いの言葉に触発されて言葉が湧きだすような素敵な時間でした。

有冬典子(ありとう・のりこ)さん
2002年「私を生きる あなたと生きる」を理念としたシーズ・キャリアリサーチ(現有冬C&Cコンサルティング)を設立し、独立。2017年、内的リーダーシップ開発支援の会社、株式会社Coreleadを設立。「恐れでコントロールするリーダーシップ」から「理念・志への共鳴で導くリーダーシップ」の育成に力を入れている。2019年発売の著書「リーダーシップに出会う瞬間 成人発達理論における自己の成長プロセス」は11刷を超えるロングセラー本に。


榎並 顕(えなみ・あきら)さん
オムロン フィールドエンジニアリング株式会社 執行役員。 2002年にオムロン株式会社に入社、新規事業開発や、環境事業の立ち上げを経て、11年より欧州に赴任、欧州・中東・アフリカにおける環境事業の拡大に取り組む。19年よりグローバル戦略本部にて長期ビジョン・中期経営計画の策定に携わる。22年からはNTT西日本と環境領域での合弁会社である株式会社NTTスマイルエナジーの取締役を兼務。23年より現職。現在は、製造業を中心にカーボンニュートラル実現に向け大型蓄電池事業を活用した事業を中心に取り組む。

「自分軸」で生きられる人を増やしたいという、共通の想い

有冬:2002年に「わたしを生きる あなたと生きる」を活動理念としてシーズ・キャリアリサーチ(現 有冬C&Cコンサルティング)を立ち上げ、自律型キャリア意識の確立とコミュニケーション能力育成を目的とした研修やセミナーを実施してきました。2017年からは、自らのコアな願い(理念)から影響力を発揮する次世代型リーダーシップを持つ「コアリーダー」の誕生を支援しています。

榎並:2002年にオムロン株式会社に入社し、現在はグループ会社であるオムロンフィールドエンジニアリング株式会社(以下、OFE)の執行役員として、法人のお客様を中心に太陽光や蓄電池、熱ソリューションなどを組み合わせた最適なエネルギーマネジメントシステムの提案・提供する事業を通じて、次世代の社会に求められる価値を提供しています。

――お二人の原体験のひとつである、学生時代についてお聞かせください。

有冬:通っていた私立の中高一貫校は、人の入れ替わりもない「ムラ社会」のようで、生きている実感が湧かなかったのですが、大学ではのびのびと動き出すことができ、小さな事業をしました。「易学研究会」という大学屈指の人気サークルの部長として、会社のパーティーで占いをしたり、「手相占い通信」と銘打って、自分の手相のコピーと500円分の切手を郵送してもらって占って返送したり(笑)。自分がアクションを起こせば、社会は反応を返してくれる。その面白さに気付いた大学時代でした。

ただ、中高6年間のある意味抑圧された時間が影響し、社会人になってからも「自分のやりたいことをしたい。自分の道(キャリア)を歩みたい」と考えては、「そんなことできるのか、本当にいいのか」と、恐れや迷いが立ち上がっていました。

当時は、キャリアデザインという言葉もありませんでしたが、自分が抱え続けている課題を解決するために勉強して、大学生向けに「この先は自分で道を選べる。でもそれって恐いよね。じゃあどうする?」と、自分の軸や未来を考えてもらうセミナーを開いていたりしました。

榎並:私は滋賀県の進学校出身です。田舎という環境もあって非常にのびのびした環境で「好きなことを思いっきりする」という価値観の友人に囲まれていました。

大学に入るとスキューバダイビングにのめり込み、国内外でダイビングばかりしていました。
ダイビングの魅力を知ってもらいたくて、毎年2300人ほどのスキューバライセンス取得を支援していたのですが、その結果勉学が疎かになり、大学院試験に失敗しました。気持ちを切り替えて就職活動を始めていたのですが、就職担当の教授が私のことを心配して、オムロンに大学推薦を出してくれていたんです。就職活動で既に内定も頂いていたのですが、大学や後輩に迷惑をかけるわけにもいかず、後ろ髪ひかれつつオムロンに入社したことを覚えています。 でも、入社後に自分のやりたいこと、使命感のようなものが見つかったお陰で、オムロンで働き続けることができました。 早いもので、オムロンに入社してもう20年以上が、経ちましたね。

有冬:そんな始まりからオムロンに20年以上在籍しているってすごいことで、ともすると大企業では、「他者評価」に縛られ、「自分がイキイキできるのはどんなときか」と問いかけることのないまま生きることもできます。榎並さんは「自分軸」と「他人軸」をうまくバランスを持てている気がしますが、きっかけはなんだったんですか?

榎並:入社3、4年目は新規事業の立ち上げに関わっていました。その際、新規事業に対する戦略投資の判断をされていた 立石さん(泰輔氏・ 現OFE代表取締役社長)と出会ったことが大きいと思います。立石さんの「オムロンの存在がよりよい社会につながる、そのために自分たちは働くのだ」という信念に触れ、短期的な利益の追求だけにとらわれず、長期目線で事業や人を育てることの大切さを教えていただきました。立石さんのように、自分のコアとなる価値観と会社の価値観とを上手く重ね、使命感をもって歩んでいる方と早い段階で出会えたことは、今から思うとありがたかったと思います。そこからは、自信をもって、自分自身のコアとなる価値観を大切にしながら、仕事をし続けられた気がします。

有冬:なるほど。立石さんとの出会いが、榎並さんに影響をもたらしたんですね。コアから生きる人の周りには、その生き方に触発されて自然と新たなめぐりがうまれますね。

――おふたりが「めぐらせたいもの」はなんですか?

榎並:先ほども話に出ていた「自分のコアとなる価値観を大事にできる生き方」が、めぐらせたいもののひとつですね。「他者軸」と「自分軸」はどちらか片方だけではなく、両方を統合していく必要があるとは思いますが、社会で評価を得るためには、「他者評価」に引っ張られがちになります。それは本人だけのせいではなく、多くの会社はこれまで「会社としてはこういう働きをしてほしい」という「他人軸」であるミッションを押し付けてしまい、個々の社員の「自分軸」つまり価値観を見出し活かす機会を持てなかったんじゃないかな、と。

社員一人ひとりのコアとなる価値観に基づいて力を発揮してもらうために、会社として何ができるのか、それとも活躍の場が会社以外にあるのか、そのようなところまで対話することは、時間も手間もかかります。それでも、その時間と手間をかけて社員と向き合った会社は、長期的には絶対に伸びる。なぜなら、社員の価値観と会社の価値観を重ねられるようになっていくと、社員に自律的な働きがうまれると思うんです。私の組織では「個々の価値観に歩み寄ろう」とIkigai経営※1 を取り入れて、動き出しています

有冬:素晴らしいですね。私も、自分のコアから生きられる人を増やし、その結果、社会が調和をしながら活性する未来をめぐらせたいと思っています。先ほどの立石さんと榎並さんのお話のように、コアから生きる人が増えることで、その人の周りの人たちが影響力を受け、相互作用されていく。そして、自分が自律していると、他者を尊重できるんですね。

最近、ネッツトヨタ南国店の見学に行って、感激しました。皆が自分のコアな思いを率直に発信し、依存や忖度なしに語り合っていました。当然上司の指示は必要ですが、それだけで動くのではなく、それぞれの社員がその場で一番良いと思った行動ができる。そしてその行動が自分勝手な振る舞いではなく、チームとして機能している。まさに自律共生を感じました。この頃は自律共生的な組織を目指そうという会社が増えてきているように思います。

榎並:そう思いますね。オムロンが経営の羅針盤としているSINIC理論※2では、自律社会から自然社会に向かう過程では、自己のコアとなる価値観を大切に生きるという意識変容が起こるとしています。AIをはじめとした技術の進化によって、人間としての在り方を問われていくのだと私は捉えています。

個人も「自分のコアとなる価値観が何なのか、その価値観を発揮して何をしていきたいのか」を問われていると思いますし、組織も「一人ひとりの価値観を受け止め、その価値観に基づき力を発揮してもらうために何ができるか」が問われている。両者の歩み寄りと双方向の循環が大事なんだろうと思います。

SINIC理論 図示https://sinic.media/about/
※1 社員一人ひとりが「自分の在りたい姿」や「そのために何をするか」を明確にし、みずからの源泉に基づいて主体的に行動をすることで、生きがいが最大化される経営。EudimoniaLabが提唱している。
※2 オムロン創業者の立石一真らが1970年国際未来学会で発表した未来予測理論。同理論では、2025年から、科学技術の発展により、自らの思うように生きることが結果として社会に調和して、よりよい社会への価値創出に貢献するような社会となる「自律社会」が始まり、2033年からは人も技術も自然の一部となった、あるがままの自然(じねん)の世界、それが持続可能で豊かな社会「自然社会」が始まると予測している。

「めぐらせられなかったこと」から気付く、「愛」から動く大切さ

――「めぐらせたかったけれど、めぐらせられなかったもの」はありますか?

有冬:ある大企業でのリーダーシップ開発が頓挫したことは、自分の中で「めぐらせられなかった」という思いが残る出来事でした。

その会社では、想いある部長陣が長期目線の人材育成プログラムを作り上げていて、私もチームの一人として「リーダーシップ開発」をおこなっていました。コアから生きるリーダーの触発力は強く、勝手に周囲をめぐらせていく力があります。言い方が適切かわかりませんが、その場に集まった30名のリーダー候補の「波動」を上げ、コアから生きるリーダーを一人でも多く育成したいという思いで取り組みました。

有冬:しかし、プロジェクト開始から4年ほど経った頃、「人材育成は人事部の所管だから」と、運営主体が突然人事部へと変わりました。想いある部長陣はプロジェクトから外され、「いいプログラムだから30人対象ではもったいない、対象者を100人に増やそう」「当社に必要なプログラムだとわかったから、来年はもう一社に声をかけて競争させましょう」といった人事の声で、雪崩のように変化が起きました。

「人を大切に育てたい」という「愛」から始まった人材育成プロジェクトだったのに、強力なステークホルダーである株主の顔を伺って、「こんな少人数に、結果も見えづらい投資をしていては批判されるかも……」といった「恐れ」から会社が動いてしまった。「愛」は、コアから生きる人から周囲に心地よく波及していきますが、一方で「恐れ」も空気感として一気にめぐりやすい。自分一人では止めることができず、心が折れました。

榎並:「恐れ」に基づく動きは、自分たちを守ろうとするがゆえに、企業ではよく起きることだと思います。他人からの評価を受け続ける社員の集合体である企業は、「恐れの集合体」と言えるかもしれません。

恐れに対抗する軸として機能しそうなのは、企業という人格のコアとなる価値観(パーパス・企業理念)だと考えています。一人ひとりのコアとなる価値観と、企業のコアとなる価値観との重なりを増やすことで、これから先、「恐れ」が組織内でめぐってきても乗り越えることができるのではないでしょうか。

一人ひとりのコアとなる価値観を大切にした取り組みに、組織としてようやく着手したという意味では、今まで「めぐらせられなかった」ともいえるのですが、変容には年単位で時間がかかることを前提に、企業として腰を据えて取り組む姿勢を打ち出していくことこそが、愛から始まる行動だと信じています。

自分のコアに気付き、自ら立つ人と描く未来はよりよいものに

――最後に、お二人がこれからめぐらせていきたいことを教えてください。

榎並:個人としては、最初にお話しした通り、自分のコアとなる価値観を大切に行動する人を増やしたい。コアとなる価値観を大切に、自らの使命に気付いて歩んでいける人を増やしたいし、そのような人が増えていくことで、その人の周囲も刺激されて自然とめぐっていくのだろうと思います。

経営陣の一員としては、社会に貢献できる事業をつくりたい。そのためにも、自分のコアとなる価値観を大切に行動する人を育み、一緒に事業に取りくんで欲しいという想いがあります。

有冬:その世界観、共感します。個人が心の底から追い求める夢みたいなものを深掘っていくと、どこかで自分の枠を超えた公の夢になっていくというか。公の夢に自分がつながると、社会や周囲からエネルギーをもらえるし、周囲も刺激されていろいろな物事が一気に動いていく。それぞれの使命や役割に気付いて夢中になれば、幸せな社会の実現も不可能じゃないと思います。

そう思えるようになった、小さな原体験があります。10年ほど前、20人くらいで飲食店を貸し切り、誰もが好きなことだけをするという約束で、「遷宮バー」という場を開いたんです。ギターを弾く人、その場でデザートをつくる人、好きなお酒を持ってきて飲むだけの人もいたりでめちゃくちゃ楽しい時間でした。解散時にみんなが「私、今日何もしてなくてごめんね!」と言うんです。全員が役割を果たしたからこそ場が成り立っていたのは間違いないのに、自分が夢中になれることだけをしていたから、誰も負担を感じていない。規模は全く違っても、社会もきっと、それぞれの使命に夢中になるだけで成り立つはずだと実感できた時間でした。

榎並:「自ず性」ですよね。まさにコアとなる価値観に基づいて自ずと立ち上がってくるものは、何のストレスもなく自然と行動できてしまうのだと思います。「自ずから」行動する人が集まった場のパワフルさと居心地の良さは確実にありますよね。

有冬:遷宮バーは、SINIC理論でいう「自律社会」の箱庭版だったのかなと思います。感性を閉じることなく生きることが、無理なく社会と調和して、よりよい社会になるという。

榎並:まさしくそうですね。「自律社会」、その次に来る「自然社会」と今との間にあるギャップを埋めるためにも、人の変容を全力で応援していきたいと思っています。

有冬:この先、未来を考える経営陣こそ、豊かな感受性を持つべきです。榎並さんのように、自分の感受性を大事にしている人が増えると、「愛」が出発点の経営に変わりそうです。

榎並:私の組織でも、未来を考えるときは「左脳でなく右脳を主にして欲しい」と伝えてます。「なんとなく」「もやっとする」そんな感覚を大切にできる仲間が増えたら、より様々なものがめぐっていく気がします。今日対談させていただいて、次世代を生きる人、そして自然界への責任を感じながら、利益以外への責任をも果たす会社にしたいという想いが改めて強まりました。

有冬:この先の社会の変化は、コロナ禍のように激烈なものになるのではという直感があります。例えば、頼りにしていた会社や、信じていたお金というものが当てにならない……そんな時代が来てもおかしくありません。そんなとき、私は、自分で立たざるを得なくなった人に「それでいいんだよ。自分で立って歩いていこう」と声をかける役割を果たしたいです。

(対談ここまで)

それぞれが大切にしてきたもの、これからも大切にしつづけたいものに触れていただけたでしょうか。この記事を読んでくださったみなさんも、問いをめぐらせていただけたら嬉しいです。

「あなたがめぐらせたいものはなんですか?」

「それをどうめぐらせていきたいですか?」

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