Journal

松本綾弓(株式会社meguri/代表)
幼少期より母が鬱病になり、生活保護を受けて暮らす。 16歳より働きはじめ、高校に通いながら小売業の採用・新店立上げ・店舗マネジメントを行う。その後、百貨店のテナントでチーフとなり、予算・前年比割れが一度もなく、次々と売上不振店を立直す。10年の販売職を経てIT業界に転職。物販審査管理部門の立上げ、地域に焦点を当てたマーケティング・プロモーションなどに従事。店舗の業務改善コンサルティングを中心とした事業展開で2014年独立。2015年株式会社meguriを創業
坂本悠樹(株式会社フューチャーセッションズ)
2014年よりJNC株式会社にて、経理・財務に従事。子会社を含む国内の資金管理等を担当。その傍ら、地方と都市の交流を目的としたPJを社外の有志と立ち上げるなど、組織の枠に捉われず自身の関心、価値観に沿って活動を行う。2020年6月よりFSSに会社経営全般におけるスタッフとして参画。関心テーマは、地域の暮らし、サステナブルな暮らし。
人は都市だけで生活していると、自分でも気づかないうちに「人がすべてをコントロールできる」と思ってしまう。経済合理性を求める社会の中で、失われていくものがある。でも、じゃあわたしたちはいま、何をすべきなんだろうーー?
そんな想いから、株式会社meguri代表の松本綾弓と株式会社フューチャーセッションズの坂本悠樹は、土と触れ合うプロジェクトを始めました。自然に触れて身体を動かすことで、消費だけでなく生産をすることで、見えてくるものがあるかもしれないと考えたのです。現在は仕事仲間や友人の家族と共に、月に1〜2回千葉にある畑で土や生き物と戯れています。
このプロジェクトでは、現場で手を動かす一方で、さまざまな農法の実践者や研究者にお話を聞き、人と自然の関係性について思索を深めたいとも考えています。そのことを知った知人から紹介されたのが「協生農法(シネコカルチャー)」でした。伊勢市にある株式会社桜自然塾の大塚隆さんが理論を構築し、ソニーコンピュータサイエンス研究所の船橋真俊さんが科学的に定式化して広めている農法です。一般社団法人シネコカルチャーのホームページによると、「地球の生態系が元々持っている自己組織化能力を多面的・総合的に活用しながら有用植物を生産する農法」とのこと。
協生農法を生み出し実践している大塚さんなら、わたしたちが抱えているモヤモヤや問いのヒントを持っているかもしれない。期待を胸に、東京から伊勢に向かいました。
ここからは、旅に同行してくれたライターの飛田恵美子さんにレポートしてもらいます。
自然の仕組みを観察・考察して生まれた農法
2025年6月19日、午前10時。伊勢市にある桜自然塾の拠点、ゴーリキマリンビレッジに到着しました。

川沿いの広々とした屋根付きのバーベキューテラス。風が通り抜け、開放感があります。

「まあまあ、座って」と迎えてくれたのは「野人むーさん」こと大塚隆さん。席に着くと、流れるようにむーさんのお話が始まりました。
子どもの頃から海に潜り野山を駆け回り、長い時間をかけて自然の仕組みを観察・考察してきたむーさん。あるとき農家の支援を頼まれ、頭の中にあった理論を農業に応用して実践してみたところ、作物がたくさん実ったといいます。そこから協生農法が生まれました。

むーさん「協生農法の手法は単純。木々と草が混生密生する野山と同じように、好みの野菜や果樹を混生密生させる。耕さず、肥料などの異物を持ち込まず、日々間引き収穫する。そうすると、生命エネルギーを求めて微生物や虫や鳥が集まって、自然と生態系が構築される。そのまま実践すれば誰でもできるんですよ。子どもでもできる。むしろ、子どもの方が自分なりの余計な考えを加えず素直に取り組むからうまくいく」。

手法はとてもシンプル。でも、なぜそれでうまくいくのか、どういう仕組みなのか。その土台には、むーさん独自の生命エネルギー論、協生理論があるようです。むーさんは「野菜って何?」「土って何?」「植物の生長に必要なものは何?」「エネルギーって何?」と問いかけながら、その一端を説明してくれました。ただ、一言で「協生理論とはこう」と表せる内容ではなく、無理に記載しようとすると実態とずれてしまいそうなので、ここでは説明は省きます。気になる方はぜひ、桜自然塾を訪問してください。
むーさん「何度も言うけど協生農法のやり方はすごく単純で、ブログに全部書いてある。わざわざそれを聞きにこんなところまで来る必要はない。だからここでは、学び方を学んでほしいんですよ」。

そんなむーさんの言葉に頷き、黙って耳を傾ける綾弓さんと坂本さん。話はそのまま四方へ広がっていき、協生農法で育った野菜の味の話になったところで……。
むーさん「協生農法で育った野菜は余計なものが入ってないから雑味がない。一番わかりやすいのがラッキョウ。生のラッキョウなんて普通は辛くて食べられないわな。うちのラッキョウは一年中収穫できて、生で食べられる。ニラもそう。味が全然違うんだ。こんなこと言ったら食べさせないといかんな。畑行くか」。
それはぜひ食べてみたい!……ということで、いよいよ畑へ。

むーさんの畑はバーベキューテラスのすぐ隣。草木が生い茂っていて、一般的な畑のイメージとは様相がだいぶ異なります。


遠くからは雑木林のように見えましたが、むーさんに案内してもらうと、さまざまな野菜や果物が実っていることがわかりました。


ビワやスモモを収穫させてもらい、そのままパクリ。みずみずしく、ほどよく甘味と酸味があっておいしい!

花びらも実も食べられるフェイジョア。ほんのり甘く、シャクシャクとした食感です。


先ほどお話を伺ったニラやラッキョウもありました。さっそくニラを味見して「本当だ、甘みがある」と口を揃えるふたり。ラッキョウは4分の3ほどを収穫し、残りは種玉として土に戻しました。

気づけば12時過ぎ。バーベキューテラスに戻ると、お昼ごはんの準備が整っていました。今日のメニューは、ココナッツシチュー、イノシシ肉の炭火焼き、協生野菜サラダ(レタス、トマト、イタリアンパセリ)、ヤブニッケイの葉を入れて炊いた山水米、梅ジュース。そして、さっき採ってきたばかりのラッキョウとビワ、スモモです。



一品一品が噛み締めたくなるおいしさ。身体中に栄養が染み渡っていくような気がします。
こんなふうにおいしいものを自分で育てて人に振る舞えるって、いいなぁ。

昼食の後は、またむーさんとのお話タイム。物事の学び方の話、エネルギーの話、身体と健康の話、農地再生の話……時間があっという間に過ぎていきます。
むーさん「余計なことばっかり話してる気がするな」。
綾弓さん「でも、こういう話をしに来た気がします。わたしたちもただ野菜を育てたいわけじゃなくて、畑を通して未来を考えたいと思っているから。協生農法に関しては、自分のこれまでの経験や常識を一度捨てて、とりあえず教えてもらったとおりにやってみるのがいいんだろうなと思いました」。
むーさん「そうそう。余計な考えを入れず、書いてあるとおりにやって、わからんかったら『なんでこうなるんですか』と聞いてください」。

お土産を買い、14時半過ぎにゴーリキマリンビレッジを後にしました。

訪問を終えて
桜自然塾の訪問を終え、綾弓さん、坂本さんは何を考えたのでしょうか。帰り道、感想を聞きました。
綾弓さん「生命エネルギーというとちょっとうさんくさく感じる人もいると思うけど、『この人とは気が合う』とか、『なんとなくこの場所は気持ちが悪い』といった感覚はみんな持っていますよね。そういうこととつながっているんじゃないかな。この世界には目に見えるものと見えないものがあって、人はどうしても前者に注目しがちだけど、後者にも大事なものが隠れている。じゃあどうやって見えないものを感じるか。その方法のひとつとして、自然に触れる、畑を耕すということがあるんだな、と再確認しました」。
坂本さん「むーさんは幼少期から山の中、海の中に入って、体で自然の摂理を学んできたんですよね。僕たちがそういう身体性を伴わないまま、頭だけで協生理論を理解して他者に説明しようとすると、たぶんズレが生じる。借り物の理論じゃダメなんだと突きつけられたような気がします。だからやっぱり、僕たちはもっと土に触れないといけないんだと思いました」。

綾弓さん「人間社会の論理や構造に当てはめて植物や自然を見ていくんじゃなくて、植物や自然の論理や構造をそのまま見ることが必要なんでしょうね」。
坂本さん「作物それぞれの習性や意図、生き物としての振る舞いを知ろうとしながら畑に取り組むのと、そうじゃないのとでは、結果は大きく変わるんじゃないかな。最初からいきなり成果は出せないと思うけど、まずはそういう目線を持って取り組んでみたいですね」。
綾弓さん「もうひとつポイントだと思ったのは、余計なエゴを入れないこと。むーさんは農家さんのため、世の中を良くするために協生農法を生み出したと言っていました。それを自分たちだけの利益のために使うと、綻びが生じる気がします。このプロジェクトも、経済合理性を優先すると、一気につまらないものになる。損得勘定は一旦置いといて、自分たちが大事にしたいものを追求していきたいと思いました」。
綾弓さんも坂本さんも、今回の訪問を通して、今後プロジェクトを進めていくための指針やヒントをもらったようです。長時間ご対応いただいたむーさんとスタッフのみなさん、ありがとうございました!

次回は千葉の畑の様子をお伝えするか、または別の実践者や研修者のところへ行くか……まだ決まっていませんが、引き続きレポートを上げていく予定です。人と自然の関係性をめぐる思索の旅、わたしたちと一緒に楽しんでいただけると幸いです。
株式会社桜自然塾
https://www.gorikimarin.com/
一般社団法人シネコカルチャー
https://synecoculture.org/


