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株式会社meguri代表の松本綾弓と株式会社フューチャーセッションズの坂本悠樹が中心となって進めている土と触れ合うプロジェクト。月に数回、仕事仲間や友人の家族を誘って千葉にある畑で土や生き物と戯れながら、人と自然との持続可能な関係性について探究しています。今回は、東京を拠点に企業・行政向けコンサルティングを行う2社が畑に取り組む理由について、改めて語り合いました。

持続可能な社会をつくるために、頭ではなく身体を通した「実感」を得たい
松本:このプロジェクトは、有福さんと私の間で話が盛り上がったことから始まりましたね。有福さん、なぜ畑をやりたいと思ったのか改めて教えてもらえますか?
有福:2008年頃から環境問題やサステナビリティに関心があって、持続可能な社会のためにはエネルギーと食の自立が必要だという答えに行き着きました。それには自分たちで地域をつくることが重要になる。ただ、世界的に見るとどんどん都市化が進んでいくし、僕らも都市で働いている。東京に拠点を置く企業として、サステナブルな社会を実現するためにどうやって地域と関わっていけばいいのか、ずっと悩んできたんです。だから、都市近郊に畑を持つのは実験としておもしろいなと思いました。
また、フューチャーセッションズに依頼される仕事も、脱炭素やサーキュラーエコノミー、リジェネラティブなど、この数年でサステナビリティ関連のテーマが増えています。このテーマには社員もみんな関心を抱いているけど、身体知として理解できているか、実感を持って語れるかというと、まだそうは言えません。自分たちで手を動かして実践していたら、それが大きな強みになるんじゃないかと感じています。

松本:meguriでは「人間らしく豊かな社会を次世代へ」という言葉をパーパスに掲げていて、そのために必要なのは食とエネルギーの自給だ、と私も考えています。また、クライアントワークを通してよりよい社会をつくることに貢献できている感覚はあるけれど、自分たちに一次体験があるわけではありません。いろいろな分野でつなぎ役やサポート役をする会社で、ひとつのテーマを突き詰めていく会社ではないんですよね。そのことにプライドは持ちつつ、ともすれば頭でっかちになってしまうから、ちゃんと手触り感のあることに取り組みたくて畑をやりたいと考えたんです。いま改めて有福さんの話を聞いて、会社として、個人としての課題感が似ているな、と感じました。

有福:ただ、こんなことを言っておいて自分はまだほとんど畑に行けていないので……。これが実践の難しさだな、と身をもって感じています(苦笑)。
新宅:最初に畑を見学した日の帰り道、有福さんが「本当に畑なんてできるのかな、綾弓さんも忙しいのにどうやって時間作るんだろう」と不安そうにしていたのが印象に残っています(笑)。
有福:うちは子どもももう高校生と中学生で、一緒に畑に行く年齢でもないしな、と思ってしまって。
松本:その代わり、さかもっちゃんを畑隊長に任命してくれましたね。さかもっちゃんは畑に取り組む意義をどう感じていますか?
坂本:数年前から放棄された茶畑の再生プロジェクトに参加していて、もともとこういうことには関心があるんです。フューチャーセッションズとしてもすごく意義があるんじゃないかな。コンサルタントとして目的に対しロジカルに詰めていく思考は大事にしているけど、頭だけで考えても掴みきれない領域というものがあって、自然の中で体を動かすことでそういう部分が鍛えられていくんじゃないかという気がしています。ただ、「言葉にならないことを大事にしたい」という話を言葉で説明するのもちょっと矛盾していますよね。もっと、現場にどっぷり浸からないと。

松本:たしかにそうですね。……と言いつつ記事のために言葉を重ねると、私自身は子どもと一緒に取り組むことも大切にしたいと思っています。子どもって、人間社会の仕組みにまだ組み込まれていなくて、大人よりも自然に近い存在じゃないですか。コントロールできないし、積み上げてきたものをいきなり壊されたりもするし(笑)。子どもと過ごしていると、全部計画して思い通りにしたいというマインドに否応なくストップがかかるから、気づきが多いなと感じます。
有福:都市で暮らしていると、人間が物事をいいようにコントロールできると思いすぎてしまうんですよね。コントロールできないことが当たり前である、という肌感覚が抜け落ちてしまう。前回坂本さんと綾弓さんが見学してきた協生農法も、以前から関心があったんです。人間が手を加えすぎず、自然に委ねて作物を育てるという考え方。
坂本:協生農法の考え方は僕たちの畑にも取り入れていきたいですね。フューチャーセッションズという会社がめざすものと畑のプロジェクトがめざすものって、基本的には同じだと思うんです。どちらも「未来の選択肢をつくる」ことをめざしている。でも、アプローチが異なります。仕事ではきっちりマネジメントしてコントロールしていくことが必要だけど、畑では自然に合わせてゆるやかに対応していく。その対比を意識して取り組むとおもしろいんじゃないかな、と考えています。
芽が出るのを待つ、季節がめぐるのを待つ。畑は忘れてしまった「待つ」感覚を思い出す場
松本:さかもっちゃんは独身だけど、畑に来る子どもたちからとても好かれていますよね。さかもっちゃん自身は子どもたちとの交流をどう捉えていますか?
坂本:姪っ子を見ているような感覚ですね。基本的に子どものやりたいことは邪魔したくないと思っているんです。社会にとって良いことをしようとしているのに、子どもを差し置いて自分のやりたいことをするのは違うというか。子どもが「ねえ聞いて」「こっち見て」と言っているのに、ほかのことをするのは居心地が悪く感じます。生産性や効率が求められる現場でもないですしね。茶畑でも、「手分けして効率よく進めること」ではなく、「効率が落ちたとしてもみんなで一緒に楽しむこと」を大事にしています。
新宅:坂本さんは子育ての経験がないのに、私が思う「子育ての正解」に近づいているなと感じます。私も子どもと一緒に山や川へ行くとき、もちろん自分も楽しむんだけど、主役はあくまで子どもだということを忘れちゃいけないな、子どもがそこに安心していられることを一番に置かないとな、と気をつけています。

坂本:僕自身は普段からひとりの時間がたくさんあるから、畑の時間だけ子どもを優先するのは簡単です。親御さんはなかなかそうはいきませんよね。また、さっき僕が言ったこととは反対に、子どもを子ども扱いしすぎず一人の人間として対等に接して、大人ももっと子どもと一緒に楽しんだ方がいい、という考え方もあると思います。そのあたり、僕は子育て経験がないのでわからなくて。
松本:真摯に考えていてえらいなぁ。さかもっちゃんは子どもをひとりの人間として対等に見て、そのうえで気持ちを尊重しているように見えます。だから子どもたちから好かれるんじゃないかな。

新宅:少し話が飛躍しますが、最近、待つことができない人が増えているなって感じます。わからないことがあったときに何冊か本を読むようなことはせず、動画を早回しで見てすぐに結論を得ようとする。誰かとやりとりしていてちょっとモヤモヤしたとき、自分の感情を掘り下げて考えて言語化するような時間を持たず、とりあえずスタンプで返しちゃう。手に取りやすい感情だけを掬い上げて、表面的なコミュニケーションを打ち返しあっている感じがします。自分の気持ちを省みることも待てないし、相手の気持ちを聞くことも待てないんですね。
ただ、子どもの通う学校では、待つことが大事にしているんですね。「1+3=4」と教えるんじゃなくて、子どもたちが自分で答えを見つけるのを待つ。子どもたちは自分が答えを見つけるのを自分で待つし、友達のことも待ってあげるし、自分も待ってもらう。授業の中で待つ練習を重ねているんですね。一方、私たち大人の多くはそういう教育を受けていません。だから、大人が畑をやるのはすごくいいんじゃないかな。芽が出るのを待つ、育つのを待つ。無理せず待っていると、自然と季節がめぐって作物が実る。待つという経験を思い出す、良い機会になるんじゃないかと思います。
松本:その話、すごく共感します。戦後、日本人は生産性をどれだけ上げるかを追求してきて、その結果復興できたわけですが、それによって失われたのが待つ姿勢だったり、時間を味わう感覚だったりするんだと思います。私自身、効率やスピードを追求したことで獲得してきたものがたくさんあるけど、そこで一点突破した後は別のやり方を取り入れたほうがいいんだろうなと思っていて。スピードを緩めること、待つことが私の課題で、山や畑にはそのヒントがたくさんあるんだろうなという気がしています。

坂本:さきほどのコントロールの話ともつながってそうですね。なんでも全部自分で管理しようとするのではなく、自然に委ねて、結果を受け止める。自然との関係性をコントロールしようとするんじゃなくて、関係性のほつれをケアする。そういう姿勢を持つ人が増えることが、サステナブルな社会につながっていくんじゃないかな。
新宅:うまく言えないけど、待つって、問うこと、問われることとセットだと感じています。関係性を修復するために問うて、相手の反応を待つ。
坂本:そうですね。相手に対して何かを問うたり、働きかけたりすることで関係性が生まれる。人に対しても、自然に対しても。でも、問うたことで向こうが何を返してくれるかはわからない。相手を支配するような働きかけだったら良い反応は返ってこないだろうし、そうじゃなくても何も返ってこないかもしれない。それでも、自分にできるのは問うことしかない。
松本:一方で、畑の場合は思わぬレスポンスがくることもありますよね。そんなにお世話しているつもりじゃなかったのに、2週間後にきたらすごい勢いで育っていたりして。
坂本:そうそう。でもそれはもしかすると、過去に投げたものが時間を経て返ってきたのかもしれない。「どうしてこういう反応が返ってきたんだろう?」ということも、じっくり考えて受け止めたい。

松本:いずれにせよ、自然ってこちらの思惑通りにはいかないものですよね。いま私たちが通っている畑を管理している伊藤さんも、「最初は意気込んでいろんな農法を試してみたけど、結局できることしかできないと悟って、いまは力を抜いてゆるっとやっている」と話していました。私たちもそういうスタンスでやっていきたいな。
あと、人との関係性で言うと、千葉の畑では猫を抱っこしているおばあちゃんがふらっとやってきて、いつの間にか子どもたちがおばあちゃんの家に遊びに行ったりしているんですよね。そういう光景もいいなぁって思います。
坂本:東京に比べて境界線が曖昧で、入り込んでいくのを許してくれる雰囲気がありますよね。
松本:待つこととか、ゆるやかな関係性とか。最初から意図していたわけじゃないけど、そういうキーワードが浮かび上がってきました。
坂本:野菜を育てるだけじゃなくて、そういう気づきを蓄積していきたいですね。
畑を耕しながら出てきた問いをもとにゲストを呼び、知見を深める
松本:今後の話をすると、個人的には里山にも手を広げたいなと思っています。畑は自然ではなく人工物だから、その範囲内でできることもあるけど、自然と人の暮らしが融合した里山でしかできないこともあるはず。1か所にこだわりすぎず、それぞれの興味関心に合わせていろんなところに拠点を持てたら。そうすると自分たちだけで管理するのは難しいから、地元の人との連携も大事になってきますね。
坂本:土地の人が何を大事にしているかを自分たちがまず理解して、自分たちがやりたいこと、大事にしたいことも聞いてもらえるような関係性を築けたらいいですね。
松本:その一方で、東京ではフューチャーセッションズのオフィスを会場に、いろんな人をゲストに呼んでトークイベントや対談を行い、知見を深めていくことにも取り組んでいきたい。有福さんは「この人に話を聞いてみたい」という人はいますか? 食とエネルギーの自給について、影響を受けた方とか。
有福:うーん、理論や地域の課題を知るうちに食とエネルギーの自立にたどり着いたという感じだから、これというものは……。あ、でも野口種苗研究所のタネの話はおもしろかったな。以前、「いただきますの日」というプロジェクトを行なっていたんですよ。2010年に名古屋でCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)が開催されたけど、生物多様性って難しいじゃないですか。まずは食に感謝することから始めようと、毎月11日を「いただきますの日」に設定して、食にまつわるイベントを企画していったんです。設立が2011年11月11日。しばらく休眠状態だけど……。
松本:それ、来年の11月11日にやりましょう。自分たちが育てた野菜でカレーを作ったりして。いま改めて野口種苗さんに話を聞くのもいいですね。

有福:あとは、エクセルギーハウスの黒岩哲彦さんとか。
坂本:太陽や風、雨など自然の力を活用し、できるだけエネルギーを使わずに冷暖房や給排水を行う家を提案する建築家ですね。高木・中木・低木、その下に野菜を植えて、平面ではなく立体的に生産する「食べられる森」も提唱されています。できるだけ人が手を入れなくても回るように設計しているので、前回訪問した協生農法とも考え方が近いかもしれません。
松本:おもしろいですね! あと、さかもっちゃんは『土中環境』著者の高田宏臣さんに話を聞きたいと言っていましたね。
坂本:はい。協生農法のようなことを実践するにあたり、どうやって耕さずに土を良い状態にしていくのかをちゃんと学びたいと思っています。

新宅:土中環境、私も関心があります。今年の夏、めちゃくちゃ暑かったですよね。日本の気候がどんどん変わってきているなと感じます。子どもたちと遊びに行く川も、年々形が変わっているんですよ。川幅が狭くなっていたり、あったはずの水域がなくなっていたり、いたはずの生き物がいなくなっていたり。土中の環境も、長い目で見たらきっと変わっているはずですよね。その過程を見ながら、未来をどう捉えているんだろう。
耕して土を作るのは自然に手を加えることなので、さきほど話していた「待つ」とは別のアプローチかもしれない。でも、土と関係をつくっていくことでもありますよね。矛盾しているしうまく言えないけど、そういうことに興味があります。自然が変わっていく様子をただ眺めて待っているだけだと、そのうち人間は日本に住めなくなるかもしれない。自分たちが生きるための食とエネルギーを自給していくという話も、地球からは別に求められていないのかもしれない。でも、子どもたちのことを考えると、人が住みつづけられる環境であってほしいと思う。人間と自然との関係性を考えていくと、矛盾ばっかり感じます。そういうことに対して、土中の環境をずっと研究してきた方がどういう考えを持っているのか聞いてみたいです。
松本:そうした問いを持ってゲストを呼ぶと話が深まりそうですね。畑を耕しながら出てきた問いをもとにゲストを呼んでみんなで知見を深め、それぞれの地で実践して、その結果を持ち寄ってまた集まる。最初から形を決めすぎず、問いかけて返ってきたものを受け取りながら、ゆるやかに続けていきたいですね。



