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【meguri10周年連載対談session4】 想いある多様な仲間とともに、街の人の「大切」を次世代にめぐらせる 。今村ひろゆきさん×小林一雄さん

Writing
Azusa Okajima
Photo
Takahiro Yoshida
【meguri10周年連載対談session4】 想いある多様な仲間とともに、街の人の「大切」を次世代にめぐらせる 。今村ひろゆきさん×小林一雄さん

2015年、「meguri(めぐり)」という名前の会社を立ち上げました。
心や体を/人から人へ/地域や社会に/未来へ向けて。さまざまな形で循環していく想いや物事を大事にする会社にしたい。言葉にするにはまだ漠然としていたけれど、でもたしかな想いから、meguriは始まりました。

そんなmeguriも、めぐりめぐって10周年。たくさんの人とめぐりあい、想いをめぐらせてきました。この節目に、meguriのパーパスを体現されているみなさまに、それぞれが大事にしている「めぐり」について聞いてみたいと思います。

第4回でお届けするのは、今村ひろゆきさんと小林一雄さんの対談です。小林さんが保有する入谷の空きテナント活用を模索する中で出会った二人。出会った日に意気投合した二人のまちづくりに対する想い、今、そして未来でめぐらせたいものについてお話しいただきました。

今村ひろゆき(いまむら・ひろゆき)さん
まちづくり会社ドラマチックの代表。公共施設・イベントスペース・カフェ・財団などを地元参加型の場に変容させ、「ワクワク活動する人・まちを増やす」エンジンをまちにインストールする事業を続けて13年目。行政や企業とパートナーシップを組み東京、千葉、高知など全国9施設10プロジェクトを運営。
業界を超えた共助の輪を広め、地域のヒト・モノ・コト・カネ・カンドウを循環させ、ワクワクする未来を地域のみんなでつくることを目指しています。


小林一雄(こばやし・かずお)さん
1971年生まれ。小学校から大学まで台東区で育つ。
慶應義塾大学理工学部機械工学科を卒業後、日野自動車工業に入社。その後、祖父の代から続く家業のメトロ設計に入社。2008年、五代目社長として代表取締役に就任。2004年、昭和43年竣工の自社ビルを活用したインキュベーション施設”ベンチャーステージ上野”、2014年にシェアアトリエreboot、2015年に「現代の公民館」をコンセプトとしたイベントスペースSOOO dramatic!を立ち上げ、2022年からは地元有志とビル屋上で「鶯谷ハニーラボ」という養蜂活動をスタートするなど、地域密着のまちづくり事業にも注力している。

入谷のビルを拠点に、「人」中心のまちづくりを

――最初に、自己紹介をお願いします。

今村:「まちづくり会社ドラマチック」という会社を立ち上げて13年ほど経ちました。当初から、街で活動する人たちが増えたらという想いで場をつくって運営し、活動を始めた人たちを僕らが支えることで、街の活性化を後押ししています。

ドラマチックの活動は台東区浅草からスタートし、小林さんと一緒に始めた入谷のイベントスペース「SOOO dramatic!」やコワーキング&シェアアトリエ「reboot」、千葉県習志野の公共施設「フューチャーセンタ―ならしの」などの運営に関わってきました。現在は高知県の西の端、宿毛という地域で「宿毛まちのえき林邸」というスペースを運営し、地域課題が山積する中でも、事業を通して街の人のワクワク、ハッピーな暮らしをバックアップできるんじゃないかという仮説のもとでチャレンジをしています。

小林:祖父が創業した、メトロ設計株式会社の5代目社長を務めています。都市インフラに関する道路・鉄道施設・地下インフラの設計を手掛ける会社で、今年で60周年を迎えることができました。また、メトロ設計本社が入居する「ソレイユ入谷ビル」を活用したイベントスペースやシェアアトリエ、インキュベーション施設の運営を行い、2022年からは、地元の方々とビルの屋上で「鶯谷ハニーラボ」という活動を始め、自然と街、人と街の関係を考え直す地産地消モデルの実験をしています。

――お二人の出会いについて教えてください。

小林:僕が今村さんにメールしたんです。メトロ設計が入居する「ソレイユ入谷ビル」の1・2階がまるまる空いていて、どうにか活用できないかと考えていた頃、今村さんの街での取り組みを知りました。インフラ設計という本業を通してだけでなく、何かしらの形で子どもの頃から育った街に恩返ししていきたいと考えていたので、「まちづくり会社ドラマチック」という印象的な社名の会社を立ち上げている人と、とにかく会ってみたいと。


今村:メールいただいて、びっくりしました。実は、浅草でドラマチックの活動を始める前、入谷で場づくりができないかと物件を探したことがあったんです。浅草や上野、谷根千はすでに数多くのプレーヤーがいる中で、自分のあまのじゃくな性質もあって「入谷は可能性だらけだ」と感じていたので(笑)。そんな入谷に関われるかもしれないと感じるご連絡は、率直にうれしかったです。

小林:今村さんと会って、「これからの街づくりに欠かせない人だ」と直感したんですよね。見た感じは、これまで出会ってきたスーツ族の人とまるで違ったけど……帽子の兄ちゃんが来た! って(笑)。

今村:堅い業界で経営者を続けてきた小林さんからしたら、ほぼエイリアンですよね(笑)。


小林:でも、当時今村さんが関わっていた「浅草エーラウンド」という、革とものづくりのまち・奥浅草エリアの魅力に触れられるイベントの話は印象的でした。今村さんは、地元の方と、軽やかなんだけどすごく丁寧に協働していた。場所やイベントが主体ではなくて、その場を誰かの活躍の舞台にしたり、街の交流拠点にして、そこに来た人をどうイキイキさせるかに力点が置かれているそれが、これまでの場づくりと全然違うと思い、ぜひ「ソレイユ入谷ビル」の活用にも力を貸してほしいと思いました。

今村:当時、多方面から「空きテナントをどうにかできないか」とお声がけをいただいていたんですが、どれだけ収益を上げていけるかといった、不動産業的な話に終始することが多かったんですよね。そんなとき、小林さんは僕の前に、台東区周辺の面白いプレーヤーをマッピングした地図を広げてこの街の可能性について話してくれたんです。この人、なんか違うぞと(笑)。

収益性はもちろん大事。ですが、その「大事」は小林さんと僕、お互いが「ソレイユ入谷ビル」での活動を継続するために必要という意味合いで、この場と、場に関わる僕たちの活動を持続させることが、本気で街をよくすることにつながると信じているというか……こういう人となら、一緒にできるかもしれないと直感し、半年後には「ソレイユ入谷ビル」でイベントを開くまでになりました。

小林:まちづくりに対する想いに共感し合えたことで、まちづくり会社ドラマチックとメトロ設計で合同会社点と線と面を立ち上げ、2014年3月にコワーキング&シェアアトリエ「reboot」、2015年4月にイベントスペース「SOOO dramatic!」をオープンしました。オープン以来、自分では想像もできなかった交流が生まれ、その出会いから思いもしない新しい活動が生まれ、街をめぐっています。

今村:そうですよね。10年近くかけて、独自の生態系が生まれています(笑)。


reboot


一人ひとりの生きている実感をめぐらせて、街を元気にしたい

――お二人が「まちづくり」に関心を持たれたきっかけはありますか?

小林:最初のきっかけは「街が元気かどうか」が、本業へ影響すると感じたことですよね。都市インフラは税金で賄われているので、税収が確保されないと整備できない。つまり、人が住みたい、活動の場を置きたいと思う元気で楽し気な街が増えなければ、メトロ設計の仕事は減ってしまいます。
仕事が減ってほしくない……という素朴な気持ちから、それなら、会社のある台東区から元気にしたいし、活気を生み出せるようなまちづくりそのものが将来のメトロ設計の仕事になったら、それはそれで面白いよなという発想が生まれました。

今村:僕は、学生時代にバックパッカーをしていて、思い思いに活動する人が多い街の面白さを知ったことがきっかけでしたね。路上でマーケットを開く人、噴水の前で突然始まるミニコンサートに聴き入る人たち、路地から水鉄砲噴射しながら走り出てくる子ども……日本の街も、こんな風になったら面白そうという直感からまちづくりの仕事を調べたものの、街の人が、自分のしたいことをして食べていける仕組みづくりにまでアプローチしている会社はあまりなかった。だったら、自分が実践して、バックパッカー時代に見た楽しそうな街を実現したいと思いました。

ただ、「まちづくり」というと建物などハード面に注目が集まりがちですが、街で生きる一人の「生きがい」というソフト面に軸を置きたいという気持ちが大きくなりました。


小林:今村さんは、僕が出会った10年前にも、そういった想いを持っている人だと感じてました。「街の元気」とさっき話したけど、その元気を生み出す可能性がある「人」にすごくフォーカスしている。

今村:街で暮らす人に「生きててよかったな」と思ってほしいんですよ。僕自身、高校生の頃や社会人になりたての頃は、自分が誰かの役に立てることが全然見つからないというか、生きている実感がなくて、つらかった。街の人たちには、自分の可能性を信じられたり、明日がちょっと楽しみだと感じられたり、今日よかったなと思えたりする毎日を送ってほしい。そういった「生きててよかった」がめぐることが、街の元気やワクワク感につながるそんなことを思っています。

あと、僕はネガティブな環境、例えば愚痴ばかり言う人がたくさんいる場所にいると、あっという間に影響を受けて元気をなくしたり、その環境に背を向けてモヤモヤしてしまう(笑)。そういう、今自分がいる場所にがっかりしている人がもし街にいるなら、その環境から抜け出せるきっかけを提供したい。「生きててよかった」と思って毎日過ごしている人が集まってくると、それだけでいい空気が流れるじゃないですか。そうすると、きっと物事も動き始める。そういう状況をつくりたいですね。

小林:何か起きそう、というワクワク感や、物事を動かす風は、間違いなく人がつくりだすものですよね。「ソレイユ入谷ビル」には、地域に開かれたイベントスペース「SOOO dramatic!」、クリエイターやアーティストが集まる「reboot」、4階には私のビジネススクール時代の同級生の若山さんと立ち上げたインキュベーション施設「ベンチャーステージ上野」があり、普通なら話もしないだろう個性的な人たちが場に集い、出会っています。

この場で出会った方々と何かプロジェクトを始めたり、会社のホームページをつくるときに力を借りたり、いつもどこかで助け合いや化学反応が起きている。そういったポジティブな場に身を置いていると「自分も何かできるんじゃないか」と、今まではイベントの参加者だった人がイベントの企画を持ち込んでくれたりといったことが起きて……企画側や発信側になってほしいということではなくて、何かその人の中で変容があったのかなと想像すると、この場を開いたことで自分も幸せをもらっていると感じます。



今村:自分たちが関わった場で、事業の連鎖や、人同士の縁のめぐりを目の当たりにできることは、幸せですよね。

小林:本当に。そういえば、とついでみたいに言ってはいけないのですが、メトロ設計の本業にも追い風が吹き、地元台東区から設計のお仕事をいただけるようになったんです。「reboot」と「SOOO dramatic!」のオープンによって地域に開いた活動が増えたことで、台東区に暮らす方、働く方と自然と交流が深まったことは、間違いなく影響していると思います。

想いある、多様な仲間とともに、街の人の「大切」を次世代にめぐらせる

――「めぐらせたかったけれど、めぐらせられなかったもの」はありますか?

小林:会社のすぐ近くにある「旧 坂本小学校」の建屋の活用方法を模索して懸命に活動していたのですが、解体という結果に終わってしまいました。人口減少などを考えれば、新築の家が要らない時代なのに、街の風景を成してきた建物が、資本主義的な論理にあらがえずに壊されていってしまう……悔しかったですね。

今村:そうですよね。時代を見守ってきた建物はもちろんですし、この地域だと、ものづくりなどの産業を守る難しさも感じます。また、地方ではそれぞれの生業がかみ合ってよい地域循環ができていたとしても、若い人が都会に流出し、地域の暮らしが回りづらくなるといった現象が起きはじめています。今は、その循環をつくろうと、みんなで会社つくって生鮮品を買えるお店をつくろうとか、施設に入れない高齢者を共助で支え合う仕組みをつくるNPOなどが出てきています。
そういった活動を支援するため、「みんなでつくる まちづくり財団HATA!」を立ち上げ、街のみなさんから資金を集めて、投じたいと思うことをみんなで選んで、お金やマンパワーを投じられる仕組みをつくっています。少し希望が見えてきました。

 

小林:今、街の人たちの大切なものを次世代にめぐらせようと思うと、多くの場合、お金の問題がついてまわります。なので、まさに今村さんの立ち上げた「HATA!」のように民間で財団をつくったり、基金を創設したりといった、ものもお金もめぐらせるための仕組みをつくりたいですよね。あとは、仲間を増やしたいですね。同じ想いを持った人たちと進めていきたい。

今村:仲間づくり、そして、街の文化づくりが大事ですよね。谷中の「上野桜木あたり」なんかすごいなと思います。マンションにするなど経済偏重の選択肢にきちんと抗い、街の文化を伝えるひとつの拠点になっている。

小林:そう考えると、仲間づくり、文化づくりにとって、人が集まれる場って重要な気がします。場が結ぶ縁から、街の人にとって大切なものを次世代にめぐらせられたら最高ですね。

今村:開かれた場には、思いもしない出会いが待っていたりしますよね。最近、物事をめぐらせるには異世界の人に出会うことが重要なのではと思うようになりました。僕にとっては、金融機関や交通インフラ会社、病院など今まであまり縁がなかった場所の方と会うと、その中に時々「一緒に何かできるかも」と感じる仲間がいるんです。互いの世界のいいところを持ち込み合うことで、街が面白く変わる。そんな気がします。

(対談ここまで)

それぞれが大切にしてきたもの、これからも大切にしつづけたいものに触れていただけたでしょうか。この記事を読んでくださったみなさんも、問いをめぐらせていただけたら嬉しいです。

「あなたがめぐらせたいものはなんですか?」

「それをどうめぐらせていきたいですか?」

 

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