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【meguri10周年連載対談session5】企業活動を通して、社会にできることを考える。川戸健司さん×熊代知暢さん
- Writing
- Emiko Hida
- Photo
- Ayako Mizutani

2015年、「meguri(めぐり)」という名前の会社を立ち上げました。
心や体を/人から人へ/地域や社会に/未来へ向けて。さまざまな形で循環していく想いや物事を大事にする会社にしたい。言葉にするにはまだ漠然としていたけれど、でもたしかな想いから、meguriは始まりました。
そんなmeguriも、めぐりめぐって10周年。たくさんの人とめぐりあい、想いをめぐらせてきました。この節目に、meguriのパーパスを体現されているみなさまに、それぞれが大事にしている「めぐり」について聞いてみたいと思います。
第5回の対談は、自然電力株式会社共同創業者兼代表取締役の川戸健司さんと関西電力株式会社イノベーション推進本部マネジャー の熊代知暢さん。それぞれの立場からエネルギー事業に携わってきたお2人に、企業の視点からめぐらせたいものについて語っていただきました。
川戸健司(かわと・けんじ)さん
大学卒業後、風力発電事業を行うスタートアップ企業に就職。管理部門の他、事業開発、プロジェクトマネジメントなど、企業経営と再生可能エネルギー事業について幅広い経験をする。2011年、東日本大震災を経験し、同僚だった2名と自然電力株式会社を設立。「青い地球を未来につなぐ」をPurposeとし、世界20か国以上の仲間と共に日本・アジア・南米で再生可能エネルギーを推進。個人としては、家業の関係である「食」や、現在設立準備中であるCo-Innovation University(共創学を中心とした4年生大学)を通して「教育」に対してアクションを行っている。人生の目標は「世界に彩りを」。
熊代知暢(くましろ・とものぶ)さん
2005年関西電力株式会社に入社。経営企画部門における組織管理、営業企画部門における電力小売全面自由化対応業務などを経て、2021年よりイノベーション推進本部マネジャーとして 新規事業開発を担当。電力小売全面自由化においては、関西電力として最初の低圧小売自由メニューの設計、大手通信会社とのアライアンス提携などを手掛ける。現在は、イノベーション推進本部において脱炭素にかかるビジネスを中心に企画・開発を行なっている。
関西電力社員と、自然電力共同創業者。それぞれの想いと取り組み
――まずは自己紹介をお願いします。
熊代:2005年に関西電力に入社し、勤続19年目になります。僕が就活をしていたのはちょうど電力の小売り自由化が進んでいった時期で、後の10年で大きく状況が変化していくことが予想されました。そのときにミドルのポジションにいたらおもしろいんじゃないかと思ったことが関電を選んだ理由です。キャリアの前半は営業や経営企画などを経験し、後半は新規事業開発に携わってきました。
たとえばそのひとつが「CQ」。カーボンニュートラル社会の実現に向け、一人ひとりがライフスタイルについて考え、行動を変えていくことをめざすプロジェクトで、まず「銀行」という分野からはじめてみようとしています。
当初、会社から言われたのは、「脱炭素」「生活者の行動変容」をテーマに新規事業をつくることでした。 脱炭素につながる行動は快適な生活とトレードオフになりがちです。いきなり直接的な行動変容を迫るのは難しい。すごく悩んだ末に、間接的なところから始めようと考え、銀行に預けてもらった預金を脱炭素につながる取り組みに限定して投融資する金融サービス事業を立ち上げることとしました。
無限の経済成長を可能にしているのはお金というある種の「技術」なんですよね。信用創造に基づいて増やすことができる、将来のFCFを前提に今はまだないものを 計算上は「お金として」あると認識できるから 、理論上は無限に成長できる。 一方で、自然環境は有限です。「この矛盾をどうやったら統合できるだろう」というのが僕にとっては大きなテーマで、無限を可能にしているお金を考え直すことによって 、有限なものである環境の問題を解決していくことに意味があると思いました。
2022年から このプロジェクトに取り組んできましたが、夏に異動となり、現在は次世代エネルギーに関する新規事業に取り組んでいます。

ロゴデザインは「CO2」という文字列を圧縮させた造形となっていて、CO2を抑制するというプロジェクトの目標を体現している
川戸:僕は2011年に仲間と自然電力という会社を立ち上げました。はじまりは、大学生のときに風力発電事業を行うベンチャー企業でインターンをしたこと。最初は「なんとなく地球に良さそう」程度のイメージで取り組みはじめたのですが、ある地域でおばあちゃんから「こんな何もないところに産業を作ってくれてありがとう」とめちゃくちゃ喜んでもらえたんです。
もともと僕には「誰かが幸せになるために誰かが不幸になるような仕事はしたくない」「人が生きる上で必ず必要となるような仕事がしたい」という想いがあって、風力会社はその両方に当てはまると思いました。新しい価値を生み出して、みんなが幸せになる。
そのままその会社に入社し、風力発電事業は一気に成長したのですが、ある時期から反対運動が盛んになり、数十人に囲まれてビデオを撮られたり卵を投げつけられるような状況にまで陥ってしまって。東日本大震災が起きたのはまさにそんなときでした。
僕はそれまでずっと、自然の力を使って人間の暮らしを支えている、自然と人間の架け橋をしている、という自負を持っていました。けど、自然は津波という形でたくさんの人の命を奪っていった。自然は人間より遥かに大きな力を持っていて、助けてくれることもあるけれど時には、ときには人間に襲いかかることもある。そのことにものすごいショックを受けて、仕事も止まっていたのでずっと家で体育館座りをしてぼうっと宙を見つめていました。
でも、同じ部署で働いていた同僚2人に、「日本でこのような事故が起こってしまったけど、自分たちは30歳前後でこれまで非常に多くの経験をさせてもらった。この経験を活かして社会を変えていくのは自分たちの使命だよね!」と言われたんです。世間からずっと再生可能エネルギーは必要がないものとして扱われていたけど、原発事故により一気に注目を集めることになりました。本気でエネルギーを切り替えようと思ったら、いましかない。そのために自分たちにできることをしようと、3人で起業しました。

自然電力では、「青い地球を未来につなぐ」をビジョンに掲げ、太陽光・風力などの再生可能エネルギー発電所開発事業を世界約10か国で展開。ここ数年はEnergy Tech事業分野も拡大し、電気を作る事業から無駄なく使うための技術開発まで手掛けている(自然電力株式会社提供)
会社の事業を通して、何をめぐらせられるか
――おふたりが「めぐらせたいもの」を教えてください。
熊代:関電では主たる事業としてすでに電気事業という大きな 仕組みやシステムができあがっていて、新たに「自分の意図したものが形になる」という仕事はまだまだマイノリティです 。そうしたなかで、僕は運良く新規事業を立ち上げる役割が回ってきて、いろいろな挑戦をすることができました。
これまで誰もやっていなかったことや突飛なプロジェクトを提案すると、やっぱり最初は却下されます。でも、何度もしつこく提案していると意外と通ったりする んですよ。「ダメ」と言われてすぐに引いたら何も形にならないし、諦めずに取り組めばなんとかなるものだな、という手応えを得ることができました。だから僕は、「この会社でも0から1をつくることができるんだ」という想いをめぐらせたいと思っていました 。当時と比べると、今それは徐々に芽吹いてきていると思います。
「脱炭素」もそうですが、直接利益を生み出すものじゃないし、論理的に「これはこういう意味があります」と説明するのが難しいけれど、直観的だったり身体的にこういうものが 社会にあったらいいな というものってありますよね。脱炭素のような社会課題は論理よりもそれに近いもので解決されていくんじゃないかなと思っています。民間企業も、そうした課題に取り組むべき時代です。
とくに関電は、大きな設備を作り長期間回すビジネスモデルでやってきた会社なので、「短期間で利益を出せない事業はダメだ」という発想になりにくく、 長期的に社会にリターンを生むような事業と相性がいいはず。社員が臆せずに挑戦できる環境を整えて、どんどんそうした事業が生まれるようにしたいと考えています。
川戸:最初の数年間は収益を生まないかもしれないけど、絶対に未来の社会のためには必要で、いつかビジネスにもなっていく可能性がある。そういうものに賭ける人や会社が増えると社会は変わりますよね。僕、そこで大きな役割を果たせるのは、地域に根差して事業をしている各地の電力会社だと本気で思っているんです。すでに地域でインフラを整備していて、信頼もされているから。
関西電力さんでは、そういう“事業になる手前のもの”に対して人やお金を割いていこうという動きはすでにあるんですか?
熊代:はい。これまではそうしたプロジェクトに単純に協賛するような形がほとんどでしたが、この数年で新規事業として取り組む動きが出てきたと認識しています。
川戸:そうなんですね。なぜこんな質問をしたかというと、僕がやりたいことを実現するには、自然電力の持つリソースだけでは難しい、実現がかなり遠くなると思っているんです。それで、各地域で事業をする電力会社さんのような、地域に地盤のある企業と一緒に取り組むことができたらいいなと考えていて。
これは僕の「めぐらせたいもの」につながる話なのですが、たとえばここ数年、脱炭素に対するアクションが急激に進みましたよね。これは、地球を良くしたいと思う人がたくさんいたからと思いますが、一方で、脱炭素に関するアクションがビジネスになることがわかり、多くの企業が参入したことも背景にあるのではないでしょうか。そのようなビジネスに対して、リターンが多少低くてもお金が集まる流れになったことは、私が再生可能エネルギーの世界に足を踏み入れた20年前には考えられなかったすばらしい変化です 。
しかし、社会全体のお金の流れの中でこうしたものはまだ稀で、多くは「より多くのリターンを得るものに投資をする」という流れは変わっていません。その流れを少しでも変えたいと思っています。
1つの解決策ですべてを変えられるわけではないのですが、たとえば自然電力は再エネ導入を通して次の3つのステップでこのお金の流れを変えようとしています。再エネを導入することで、①短期:エネルギー以外の産業にプラスになる(Customer value)、②中期:地域にとってプラスになる(Local value)、③長期:自然にとってプラスになる(Nature value)、という効果を出したいのです。
①は最初のステップとして、再エネを「地球のためにしょうがなくやるもの」ではなく、「経済全体にプラスの影響があるもの」に変えていく。②は、再エネ導入により電気が賄われるだけでなく、発電所のある地域にその地域の課題解決となる価値も創出する(たとえば人口減によって交通インフラが弱くなっている地域に対する交通サポートや、防災時の対策をサポートする等)ことで、人の暮らしが豊かになり、再エネが出す価値を経済的リターンだけではないものに変えていく。そして③は、再エネ導入を「自然破壊につながるもの」ではなく、「長期的に自然にとってよい影響を与えるもの」にすることで、人の暮らしだけではなく地球に住む生物にとっても良い環境を作る。そうしたサイクルを通じて人のライフスタイルも変えることができたら、リターンだけを求めるお金の流れも変わっていくのではないかと考えています。
先ほど話した電力会社さんのような会社さんと組んで進めていきたいと話したのは、まさにこの①②の部分について、我々が0から関係性を作って進めていくことは非常に時間がかかるためです。

「好き」で物事を選んでいる人と組む/空間や時間の感覚が広い人たちの輪を広げる
――「めぐらせたかったけれど、めぐらせられなかったもの」はありますか?
川戸:さっきの話とつながるのですが、自然電力では今年から、Local value(②)とNature value(③)という考えを社内に打ち出しています。我々のPurposeにはこの考えはずっと入っていたのですが、今年に入ってこの2つをより具体的に示すことにしました。
すると、地域活性化につながる取り組みについては元々地域に興味を持つ社内の人間も多く、「地域の人に喜ばれたら発電所の開発用地も増えるからいいよね」ということもあり、多くの人が賛成してくれました。でも、森を豊かにするような取り組みに対しては、社内からも「それって必要ですか?」という声が上がったんです。同じ社内の人間にも理解してもらうのは難しいんだなと思いました。
でも、「めぐらせられなかった」とあきらめたわけではありません。僕たちはさっそく「Purpose Authenticity」イニシアティブを立ち上げ、Purposeを本気で考え、実行していくチームを作りました。今もそこで③については議論している最中で、できることから始めようということで動き始めています。
熊代:僕もほとんど同じになってしまうけど、論理とか数字では説明しきれない直観的だったり身体的によいと思える価値 をもうちょっとちゃんと評価しなくちゃいけないと思っています。そして、最初にそうしたものに取り組める可能性があるのは大企業です。川戸さんがおっしゃっていたように、スタートアップ企業はなかなか余裕がないと思うんです。お金が集まらないとできないし、経営が行き詰まってしまったらどうにもならないし。
と言っても、まだ僕もしっかりと形にできたわけではないし、社外のフランクな場ではこういう話をできるけど、社内の意志決定の場で提言できるかというと、そうではありません。数字や言葉で明確に説明できないものはどうしても言いづらい。「めぐらせられなかった」というより、「まだめぐらせられていない」というほうが正しいかな。でも、若い人たちはもう、数字や言語ではないもので直観 的に仕事を選びはじめていますよね。社会は少しずつ変わりはじめている。そういうものを見越した上で、数字にならない、言語にならない、でもなんだか直感的に「いいよね」と思うもののために事業をやっていく必要があると捉えています。
――これから、大切なものをどうめぐらせていきたいですか?
川戸:いま熊代さんがおっしゃったように、論理的に頭で考えて選択しているのではなく、「なんとなくかっこいい」とか「なんか好き」といった感覚で物事を選んで活動している人と組みまくっていきたいです。
たとえば先日、長野県小諸市で林業とスノーボードを掛け合わせて仕事している方と会いました。それまでは都会で稼いで週末長野でスノーボードをする生活をしていたけれど、「この山自体が職場になればいいのに」と思い、自伐型林業をはじめたそうです。「この山を滑りたいからこのルートで木を伐ろう」と、趣味と仕事がつながった働き方をされていました。間伐を行うので森に光が入って下草が生え、生物多様性も生まれるし土砂災害なども起きにくくなる。彼女の周りには小さいけれど、趣味、仕事、そして自然がつながったいいサイクルができあがっていました。こういうサイクルが、あちこちにできるといいなと思うんです。
だって、本人の好きなことで生活もできて、それが地球のためにもなるなら、広がっていく未来しかないじゃないですか。無理をするとやっぱりどこかでその循環は止まってしまう。一方で、「好き」という感情が組み込まれていると、どんどんそのめぐりは大きくなっていく。そんなふうにめぐらせていきたいですね
熊代:CQでは、「私ごとの範囲を広げる」をテーマに活動していました。人は自分の一部と捉える範囲は大切にする。それが広がっていくなかで環境問題も少しずつ解決していくのではないかと考えています。共感してくれそうな人に会いに行って、記事を発信していく なかで、2つ大切な軸があるなと気づきました。
ひとつは、空間的な広がり。人口150人ぐらいの農村に行ったとき、「都市に住んでいる人の の世界はすごく狭い」と言われたんです。最初は「なんでこんな150人くらいしか人が住んでいない農村で暮らしている人がそんなこと言うんだろう」と思ったんだけど、家に帰ってよく考えたら、僕は隣に住んでいる人のフルネームを知らないし、顔を合わせるのなんて月に数回あるかないかなんですよね。彼らは少なくとも農村に住むすべての人の名前と顔が一致している。
僕は子どもの頃に近所の人に預けられたりしていたけど、自分の子どもを誰かに預けたり預けられたりする関係は築けていない。世界が昔より狭くなっていて、だから自分が大切にしようと思う範囲も、物理的に狭くなっているのかもしれない、と思いました。
もうひとつは、時間的な広がり。「神は死んだ」以降の現代人の多くは自分が死んだらそこで終わりだと思っているから、生きている間の人生を充実させることにフォーカスするでしょう。でも、先日木桶で醤油を作っている職人の方にインタビューをさせてもらったんですが、彼らは今儲かるかどうか、自分たちがいい暮らしをできるかどうかなんてまったく考えていなくて、「木桶で仕込む醤油」という絶滅しかけているものを次世代の子どもたちが口にできるかどうかだけに全てを賭けているんです。「自分たちが生きている間にその答えは出ないけど、それでもいいんだ」って。「自分の時間」の感覚が全然違うんですよね。
そんなふうに、空間や時間の感覚が広い人たちの輪が大きくなっていく形でめぐっていったらいいなと思っています。そういう人の生き方に触れると考えることや感じることが変わっていくから、つながりを広げていきたいですね。
(対談ここまで)
それぞれが大切にしてきたもの、これからも大切にしつづけたいものに触れていただけたでしょうか。この記事を読んでくださったみなさんも、問いをめぐらせていただけたら嬉しいです。
「あなたがめぐらせたいものはなんですか?」
「それをどうめぐらせていきたいですか?」