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【meguri10周年連載対談session6】人は体験を通して変わり、その積み重ねが社会を変える。松崎英吾さん×有福英幸さん
- Writing
- Emiko Hida
- Photo
- Ayako Mizutani
2015年、「meguri(めぐり)」という名前の会社を立ち上げました。
心や体を/人から人へ/地域や社会に/未来へ向けて。さまざまな形で循環していく想いや物事を大事にする会社にしたい。言葉にするにはまだ漠然としていたけれど、でもたしかな想いから、meguriは始まりました。
そんなmeguriも、めぐりめぐって10周年。たくさんの人とめぐりあい、想いをめぐらせてきました。この節目に、meguriのパーパスを体現されているみなさまに、それぞれが大事にしている「めぐり」について聞いてみたいと思います。
第6回でお話を伺ったのは、NPO法人日本ブラインドサッカー協会専務理事事務局長の松崎英吾さんと、株式会社フューチャーセッションズ代表の有福英幸さんです。体験の重要性、個人と社会の変容、共創の模索など、共通項がたくさん見つかる対談となりました。
松崎英吾(まつざき・えいご)さん
千葉県松戸市出身。国際基督教大学卒。NPO法人日本ブラインドサッカー協会専務理事、IBSA(国際視覚障害者スポーツ連盟)財務担当理事、一般財団法人インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション代表理事。「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いから、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。「サッカーで混ざる」をビジョンに掲げる。また、スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に疑問を抱き、障がい者雇用についても啓発を続けており、サスティナビリティがあり、事業型で非営利という新しい形のスポーツ組織を目指す。
有福英幸(ありふく・ひでゆき)さん
2012年フューチャーセッションズを創業し、2019年より代表取締役社長に就任。クロスセクターの共創による社会イノベーションの実現に向けて、市民参加型のまちづくりや企業主体のオープンイノベーション、産官学民連携プラットフォームの運営など、多数のプロジェクトを推進。前職の広告会社で培ったブランディングやクリエイティブ、環境問題をテーマにしたメディア運営の知見を活かし、エネルギー、食の観点からのシステムチェンジに注力。
フューチャーセッションとブラインドサッカー。共通するのは、「体験を通して自己変容が起きる」こと
――まずは自己紹介をお願いします。
有福:フューチャーセッションズは2012年に3人で立ち上げた会社です。私以外の2人は、企業や行政、地域の人たちが対話によってイノベーションを起こす「フューチャーセンター」という施設を展開する活動をしていました。私自身は広告代理店に勤めていたのですが、フューチャーセンターで行なっている「みんなの知恵を持ち寄りアクションを起こす」という手法は、さまざまな現場で起こっている対立や分断を解決できるものではないかと期待を抱いたのです。こうした「共創」の方法や姿勢を世の中に広げていきたいと思い、一緒に会社を設立することにしました。
具体的に何をやっているかというと、企業や行政などのクライアントと共に、対話をベースにしたイノベーションを生み出す共創プロセスを提供しています。エネルギーやジェンダー、まちづくりなど、扱うテーマは多種多様。だからこそ、「あっちで取り組んだことがこっちにもつながっている」という広がりも生まれています。十名ほどの小さな会社ですが、共創を広げ、ソーシャルイノベーションを起こしていきたいと思っています。
フューチャーセッションとは、多様な立場の人が参加し、課題をいろいろな角度から見つめる創造的な対話の場。企業の組織変革や事業開発、地域の未来を考える会議などに用いられている(提供:フューチャーセッションズ)
松崎:
有福さんご自身のモチベーションはどこにあったんですか?
有福:
不妊治療の末に娘を授かって、「この子が希望を持てる社会にしたい」と思ったんです。当時はまだ前職の広告会社に勤務していたときで、ずっと企業の新商品やサービスを売るお手伝いをしてきましたが、「消費ばかり促すのは違うんじゃないか」と疑問を抱くようになりました。
ちょうど環境問題やCSRが注目されはじめた時期で、企業も少しずつ社会に良いことをしなければならないという風潮も増えていたのですが、、「“社会にいいこと”とされているけれど、本当に効果はあるのだろうか」あるいは、「そもそも、本当に“社会にいいこと”なのか」と悩む案件も多く、自分で判断することが難しい状態でした。そこで自身の知見を高め、多くの人たちにも“いいこと”を知ってもらうために、環境をテーマにしたウェブマガジンを立ち上げたんです。メディアの運営を通じて様々な活動や行動している方々と出会いましたが、いいことをしていても活動が広がらなかったり、同じ方向をめざしているはずなのに小さな差異で対立が起きたりしている様子を目の当たりにして、一方的に情報発信するだけでは限界があると感じました。
もっと、みんなが課題を自分ごととして捉えて参加するプロセスを経ないと、社会は変わらないんじゃないか。そんなことを考えていたときにフューチャーセンターの活動に参加して、「こういう体験がめちゃくちゃ大事なんだ」と実感したんです。みんなでひとつのテーマについて話すなかで、一人ひとりに気づきが生まれ、自分ごとになる。こうした自己変容が起きるプロセスを広めてさまざまな課題が解決する土壌をつくり、希望のある社会にしていきたい。それが僕のモチベーションになっています。
松崎:お話を伺って、自己変容のプロセスにとても共感しました。僕はブラインドサッカー・ロービジョンフットサルというとてもニッチなスポーツを扱う団体の経営をしています。ですが、ブラインドサッカーは障がい者や多様性に関心のない人たちともつながり、お互いに変容することを共体験できるスポーツだと思っているんです。
僕自身、実は障がい者に対し苦手意識を持っていました。僕が通っていた小学校では背の順が一番前の生徒から特別支援学級の生徒と手をつないで課外活動をすることになっていて、ずっと背が低かった僕はそれを罰則のように感じていたんです。大学生のときにインターンやアルバイトで働いていたジャーナリストのもとでのブラインドサッカーの取材企画が出会いのきっかけとなったのですが、当日になって「しまった、自分はこういうのは苦手だった」と気づきました。待ち合わせ場所から移動するときも視覚障がい者の選手をどう手引きすればいいかわからないし、居心地が悪くて仕方なくて。
でも、ピッチでアイマスクを着けてパス交換を始めたら、「障がい者に対してどう接したらいいんだろう」「自分が助けなくちゃいけない」というプレッシャーは一切なくなりました。とにかく声や音を頼りにボールをパスすることに必死で、相手の目が見えないことは頭から消えていた。その状態が自分にとっては目から鱗だったんです。「こんなふうにフラットになれるんだ」って。心の壁が音を立てて崩れていく実感がありました。
偏見や苦手意識を持っていた僕ですらそうだったんだから、多くの人が同じような気づきを得られるんじゃないか。障がいのある人とない人が当たり前に混ざり合う社会を築けるんじゃないかと可能性を感じ、いまに至ります。
ゴールキーパー以外が全盲の選手で、アイマスクを装着し音の出るボールを用いてプレイするブラインドサッカー。日本ブラインドサッカー協会では晴眼者に向けた教育・研修プログラムも提供している(提供:鰐部春雄/日本ブラインドサッカー協会)
有福:実は、娘が小学生のときに授業でブラインドサッカーを体験しているんです。それまでブラインドサッカーに対して「ハンディキャップのある人への見方が変わる活動」というイメージを持っていたのですが、運動嫌いの娘が「めちゃくちゃ楽しかった」と言っていて驚きました。従来のスポーツとは違った形で体を動かす楽しさを味わうことができて、障がいに対する偏見も抜ける。一石二鳥でおもしろい取り組みだな、と思いました。
松崎:
そうなんです。スポーツが得意な人と初心者とでサッカーをするとなると、どうしても上下関係のようなものができがちです。でも、アイマスクをすると身体能力や経験の差がかなりフラットになり、代わりに別のセンスが必要になって、初心者でも貢献できる場面が生まれるんですね。それがブラインドサッカーのおもしろいところで、娘さんはそういう体験をしてくれたのかもしれません。
一人ひとりの小さな変化が積み重なって、社会は変わる
――おふたりが「めぐらせたいもの」はなんですか?
松崎:
視覚障がい者を取り巻く課題を解決するには周囲の協力も必要ですが、昔の僕のように「視覚障がい者は助けるべき存在」という偏見を前提にした支援はあまり健全ではありません。ブラインドサッカーを通してなら、さまざまなステークホルダーに小さな変化を起こすことができます。視覚障がい者自身もエンカレッジして、変化を促せる。一つひとつは劇的な変化じゃなくても、それが重なることで社会は変わっていくはず。だから、僕の「めぐらせたいもの」は「小さな変化を積み重ねること」かな。
有福:
僕の考えも近い気がします。普段、「社会変革」や「ソーシャルイノベーション」と言っているけど、結局それって一人ひとりがどう変わっていくかの積み重ねでしかありません。現代って、社会システムが整いすぎていてひとりでも生きていけるように錯覚してしまいますよね。お金を出せばサービスを受けられるのが当たり前で、そこから「提供する側・される側」の分断も生まれる。会社員をしていると、「与えられた仕事をこなせばいい」と意識も受け身になりがちです。
でも、本当はもっと一人ひとりが能動的に社会に参画することが大事なんじゃないでしょうか。エネルギーでもジェンダーでも障がいでも、自分にとって興味関心のある分野に対して、自分がどう関わっていけるのかを考える。今回「めぐらせたいもの」というお題をいただいて、「自分が社会にどう関われるのかという意識」なのかな、と考えました。
――これまで活動をしていて、「めぐらせることができた」と感じたことはありますか?
有福:
2012年から2013年にかけて、岩手県大槌町でまちの復興をお手伝いさせていただきました。震災前の大槌町は年配の男性が中心となって物事を決める傾向が強かったと聞いていたのですが、まちの未来を考える対話の場に主婦や学生の方々も積極的にお招きしました。そうしたら、「こういう場に参加してほかの人と話したことはこれまでなかった」「話を聞いてもらえるのがめちゃくちゃ嬉しかった」とすごく喜んでもらえたんです。
そして、高校生の女の子が「こどもたちの遊び場がなくなってしまったから新しくつくりたい」と提案すると、大人たちの目の色が変わり、「それすごく大事だよ」とみんなが前のめりになって、常設ではないけれどこどもが楽しく遊べるイベントを開催することになりました。
客観的に見たら目新しいアイデアではないし、「結局一度きりのイベントでしょう?」と評価されてしまうかもしません。でも、高校生が自分の考えを伝えて、それにいろんな人が耳を傾け、共感が広がり形になった。これって本人にとってはすごく大きなことだったと思うんです。その子はそれからいろんな活動を始めて、10年後に地域のインタビューで「あのときの会議がきっかけで人生が変わった」と語ってくれていました。
人は変われるし、その一番のきっかけになるのは、人と接して共感や応援をしてもらうという、プリミティブな体験なんですよね。自分たちの仕事の意義を見失いそうになったときは、その高校生のエピソードを思い出しています。N=1の事例だけど、僕にとってはとても大きな1ですね。
大槌町での対話の場の様子(提供:フューチャーセッションズ)
松崎:
わかりやすい成果ばかりが注目されてプロセスには光が当たらないことも多いですが、本当に大事なのはそっちだったりしますよね。こういう活動をしていると、よく周囲から「まず勝つことが重要だ」と言われるんです。勝つと注目されて、みんなが応援したくなって、人やお金が集まり社会を変えられるからって。僕はそれ、嘘だと思っているんです。勝っていても注目されていない、社会にポジティブな変化を起こせていないスポーツだってたくさんありますから。
僕たちは「勝つことで資金や競技者が増える」という従来のスポーツ界の閉ざされた循環ではなく、もっと広いところに接続していきたかった。だから、見える人をお客さんと捉えて、体験活動に力を入れることにしたんです。特に若い世代から意識を変えたいと思い、2008年頃から小中学生向けの体験学習プログラムを始めました。当時の障がい者スポーツ関係者からは「なんでそんなものに労力と金を割くんだ」「だから世界で勝てないんじゃないか」と厳しく批判されたけど、続けるうちに企業から「このプログラムは企業にも通じるよ」と言われて企業研修も始め、もう10年続いています。
そんなふうに長い間続けていると、選手が街を歩いていて「僕、お兄さんに教えてもらったことあるよ」と声をかけられたりするわけです。選手もやる気が出て、授業や研修のときに自分のことをしっかり伝えようと考えるし、プレイにも力が入る。するとまた応援する人が増えていき、企業や自治体がお金を出してくれるようになる。こどもたちがブラインドサッカー選手に憧れたり、視覚障がい者がサッカー以外のフィールドでも新たなチャレンジをしたりするようになる。そういう循環がやっと回りはじめたな、という実感があります。
企業でのダイバーシティ研修(提供:日本ブラインドサッカー協会)
多様な人と手をつなぎ、共創していく
――「めぐらせたかったけれど、めぐらせられなかったもの」はありますか?
有福:
起業した当初、「共創がいろんなところでどんどん起きる状態」を生み出したいと志していました。小学生が学級会で争いごとを解決したり、地域住民がまちの課題に対して力を合わせたり。でも、実際にはお客さんのプロジェクトに僕らがコンサル的に入って進めていくことが多いし、関われるプロジェクトには限りがあります。本当は、共創の考え方ややり方をわかりやすい形で広めて、共創できる人を増やす必要があったんだと思います。そこが正直手つかずの状態だったので、今後は注力していきたいですね。
松崎:
僕はブラインドサッカー(ブラサカ)をユニークな活動にしたいと思っていたので、従来の勝つことで回っていくスポーツのビジネスモデルをちょっと否定していたというか、「自分たちは別の道を行く」ということを鮮明に押し出しすぎていたところがあります。若かったし、僕自身ちょっと攻撃的な気質があったから。それによって反感を買うこともあったし、「ブラサカさんは特別だから」と一線を引かれることもありました。
昔はそれを褒め言葉と受け取っていたのですが、最近ようやく違うと気づきました。僕たちも、本当はそんなふうに遠巻きに見られたくて活動していたわけじゃなかったんです。もっと、手をつないで一緒に変化を起こしていくべきだった。「めぐらせたかったけどめぐらせられなかった」というより、当時は未熟だったから、それをめぐらせることの大事さに気づけなかったんですね。だから、今後はこれまで関わってこなかった人たちとどう付き合っていくかを考えていきたいです。
有福:悩みが似ているかもしれないな、と思いました。起業当初は独自性を出して差別化しないといけないけど、やればやるほど自分たちだけでできることって小さいと実感するし、広げていくにはもっといろんな人と連携する必要が出てくるんですよね。
――これから、大切なものをどうめぐらせていきたいですか?
有福:以前によく「求心力と遠心力」の話をしていました。求心力型の組織は、カリスマ性のあるリーダーや強いビジョンで注目を集める。遠心力型の組織にはそういったわかりやすい中心がないけど、「なんとなく楽しそう」で人を惹きつけ、いろんな人が参加して大きな円を描く。誰かがいなくなっても、慣性の力で進んでいく。この話を最近よく思い出します。
先ほどの話とつながるのですが、フューチャーセッションズはこれまで求心力が高まりすぎていて、「フューチャーセッションズがリードすることで共創が生まれる」状態になっていたのかもしれません。もっと遠心力を意識して、誰もが共創できるし、社会に参画できるという状況をより広げていけたら。具体的な計画はまだ何もないのですが、コンサルではない形で新しい事業をつくっていきたいと考えています。
松崎:僕も先ほどの話と同じで、いろんな人と共創していきたいです。スポーツ組織にとって「楽しむ」ってめちゃめちゃ大事なことだけど、そういう姿勢をちょっと忘れていた気がします。これまで関わってこなかった団体、めざすものが違うなと思っていた団体の現場に行ってみたら、実はワクワクする感覚を持てるかもしれない。そのなかで、一緒にできることを見つけていけたらいいなと思っています。
(対談ここまで)
それぞれが大切にしてきたもの、これからも大切にしつづけたいものに触れていただけたでしょうか。この記事を読んでくださったみなさんも、問いをめぐらせていただけたら嬉しいです。
「あなたがめぐらせたいものはなんですか?」
「それをどうめぐらせていきたいですか?」